雨(2)
火をもいで来たる指かもひさかたの雨降る逢いに大きなる手は/佐山みはる
雨。
君に案内されたミルクホールは、小町通りの路地を入ったところにあった。
派手さはないが雰囲気のいいドアを開けて中に入ると
骨董の器が無造作に並べられていた。
明かり取りだけの薄暗い店内に
お似合いのジャズが流れる。
ぎしぎしときしむ床、達磨ストーブ、夢二のおんなの絵。
「ね。素敵でしょ」
紅茶のカップで掌を温めながら、君はやっと笑った。
僕らは落書き帳をめくっては、そこに書かれている誰かの思い出に
共感したり笑ったりした。
この店の胎内のような空間がぼくを感傷的にさせるのか。
このままずっと君といたいと、許されるはずもないことをぼくは願っていた。
雨はまた激しく降り始めたようだった。
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1998年に書いた雑文です。
こちらは男性側になって書いています。
今はなき鎌倉のミルクホールは、遠い記憶の中ですわ~。