散るもよし逢う口実の花衣
“余生を楽しむ”ためのブログなので、新旧にとらわれず書いてみようと思う。
散るもよし逢う口実の花衣/佐山みはる
雨
肩先を濡らして、
かじかんだ手のかたほうをポケットに入れて歩く。
小町通りの路地を入ったミルクホールは
天窓だけの薄暗い店内。
止まったままの柱時計。
静かなジャズが流れている。
ここにいるとほっとする。
何も考えなくていい。
「まるで胎内にいるみたいだね」
そうね。
あなたもきっと気に入ると思うわ。
落書きノートにはたくさんの思い出たちが綴られている。
ページをめくりながら、私たちの思い出もめくる。
いつからか思い出は
記憶の中にしか刻めなくなってしまっていた。
近づいてくるさよならに気付いていたから、
わざと余計に楽しそうに笑ったのでしょう。
「また連絡するよ」
それは決して嘘ではないけれど、いつも儚い夢と同じ重さ。
来たとき同じように別々のホームへ向かう。
手のひらでお土産の星砂のキーホルダーが
カチャリと小さく音を立てた。
雨は一晩中降り続けた。
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1998年に書いた雑文です。
20年も前か~。
鎌倉のミルクホールは今はもうありません。
星砂も遠い昔ですね。